「新しい生活様式」の下での美術鑑賞 ( II )
先日訪問した、上野の東京藝術大学美術館の企画展「あるがままのアート 人知れず表現し続ける者たち」。とても良い企画展で大満足だった。無料、そして日時指定予約制。今や美術館観覧ではスタンダードになりつつある日時指定予約制は、たしかに「密」を避けることができるので、比較的、安心して観ることができる。
この展覧会でもイーティックスの仕組みを使っており、予約は会員登録などの必要もなく、観覧料も無料なので、すぐに予約ができる。チケットの代わりとして、購入時のメール宛てにQRコードが送られてくるので、それを現地で読み取ってもらうだけで良い。非接触なので、チケット確認のスタッフも観覧者側も、より安心だ。とても優れた仕組みではあるのだが、しかし、展覧会を見るためには「スマホ」が必須となる。
ちょうど私が訪れた時、私の前には散歩のついでにふらりと美術館に立ち寄ったと思われる老夫婦が並んでいたのだが、どうやらスマホを持っていないため、展覧会を見たいのに見ることができないという場面に遭遇してしまった。老夫婦に応対していた女性スタッフも「スマホがないとダメなんですよ」と繰り返すばかりで、それはそれで気の毒な光景だった(電話予約なども受け付けていない展覧会だった)。
前にも一度記事を書いたけれど、今までは、美術館の窓口にいって現金を払えば誰でも画を観ることができたのに、「スマホを持っていないから」という理由だけで切り捨てられてしまうという現場を目撃してしまうと、かなり複雑な気持ちになった。「新しい生活様式」とやらの下では、こうした事例は他にもあるのかもしれない。たとえば、非常事態宣言下の春頃には、「リモートワーク」が上手くできない人を小バカにするような記事をたびたび見かけて、嫌な気持ちなることも多かった。
飲食業や観光業が大きなダメージを受けていることは目に見えて分かりやすいが、他方では、我々の目にふれにくいところでも、「新しい生活様式」が続く限りにおいて、これから先もどこかで誰かが切り捨てられていくのかもしれない…。flexaret4.hatenablog.com
箇条書き美術展めぐり あるがままのアート 人知れず表現し続ける者たち(東京藝術大学美術館)
久しぶりの上野。久しぶりすぎて、上野駅の公園口の出口が分からなくなってしまった。 それもそのはず、3月20日に公園口は移設されて生まれ変わっていたのだった。3月から新型コロナの感染拡大で上野の博物館美術館などは休館になってしまったものだから、改装後の公園口を使うのは初めてのことだったのだ。改札を出てすぐの横断歩道がなくなり、そのまま上野公園内に入ることができて、なかなか良い感じ。
東京藝術大学美術館の企画展。無料。そして、日時指定予約制。新しいなんちゃらという様式に沿って、今やもう、予約制は美術館のスタンダードになりつつあるようだ。
NHKの番組「人知れず 表現し続ける者たち」とタイアップした企画展で、いわゆる「アール・ブリュット」とか「アウトサイダー・アート」と呼ばれる、正規の芸術教育を受けていない人たちが生み出すアートがずらりと並ぶ。
- 障害とともに生きる人たちの作品も多く、彼らは生活する上ではハンディキャップはあるだろうが、創作において煌めくような才能を発揮する。細密な画を描いたり、刺繍や切り紙などの細かい作業を粘り強く続ける才に長けている。すごい。
- アート作品を見る側にとって、理論とか何とか小難しいことは時として要らないよな…と思ってしまう。ストレートに心に響く…というか、驚きである。
- 会場は一部を除いて撮影OK。他にももっと載せたかったけど、できれば実際に会場に足を運んで見ていただくと面白いかもしれない。リピート訪問したい。
新型コロナ感染再拡大下のアートめぐり備忘録
最近の休日は、美術館や図書館などに行っても、繁華街は出歩かず、用事を済ませたら寄り道もせずにさっさと帰宅するような日々である。美術館は、最近は日時指定制を取り入れているところも多く、空いていて人との距離も取れるし、喋っている人もいないし、比較的、安心のできる場所だ。
ピックアップしてみたら日本の現代アートが多くなってしまったのは、コロナ状況下で移送できる手段(とくに海外から)が限られてしまったせいかもしれない。(2020年7月24日時点での情報です)
「あるがままのアート」(東京藝術大学大学美術館)
2020年7月23日~9月6日。日時指定予約制。無料。
桶田コレクション展「A NEW DECADE」(スパイラルガーデン)
2020年7月23日~8月10日。日時指定予約制。無料。
2020年7⽉10⽇〜9⽉27⽇。1000円。
SUPER LABO STORE TOKYO 森山大道 「沖縄 s49」
2020年6月26日(金)~8月22日(土)。
1974年に撮影した那覇を中心とした沖縄の情景。
ギャラリーバウハウス「ロバート・フランク大回顧展」
Part1:2020年7月1日(水)~9月19日(土)、 Part2:2020年9月24日(木)~11月21日(土)
『The Americans』で知られるロバート・フランク。www.gallery-bauhaus.com
きぼうのかたち 原美術館コレクション(ハラミュージアムアーク)
絵画のミカタ 5人のアーティストとみる群馬県立近代美術館のコレクション(群馬県立近代美術館)
KAMU kanazawa
レアンドロ・エルリッヒの新作《INFINITE STAIRCASE》…見てみたい…
2020年6月27日~8月23日。
2年前(2018年)の水戸芸術館の企画展もインパクトがあった。見たい。
奇才 江戸絵画の冒険者たち(あべのハルカス美術館)
2020年9月12日~ 11月8日。
東京展は行くことができなかったので、行きたいところだが…
2020年5月26日~10月4日。日時指定予約制。
DIC川村記念美術館「開館30周年記念展 ふたつのまどか」
2020年6月16日(火) ~ 11月29日(日)
日時指定の予約制。最寄駅から無料シャトルバスでの送迎は当面は中止とのこと。シャトルバスがないと行くのは厳しい。
新型コロナ感染拡大下の中で、なんとかキャンペーンが始まったものの、日本国内の旅行に行くのもままならない。様子を見ながら、地方の美術館にも足を運んでみたいものだ。
旅先では人と交わらない(自分は気ままなひとり旅ばかりだが)、人の集まりそうな観光スポットには行かない、宿泊先で大浴場や温泉は利用しない、食事もバイキング形式であれば利用しない…と、自衛策だけではなく、他人への接触も気を遣ったりもしなくては。
箇条書き美術展めぐり 森山大道の東京 ongoing(東京都写真美術館)
久しぶりの東京都写真美術館。「森山大道の東京 ongoing」を見に行く。土曜日の昼前だったが、すごく空いていた。このところの新型コロナ陽性数の増大で、外出を控えているのだろうか…。美術館側のコロナ対策としては、検温、消毒はもちろんのこと、エレベーターの利用人数制限(4人)、会場内の人の距離の取るための目印…など、気を遣っているのが見て取れた。
・「にっぽん劇場写真帖」などからシルクスクリーン印刷の大判の作品が数点。「絵画」として見れば、写真ではない別のものとして、まあ、新鮮味がなくもない。
・カラーもモノクロも、ここ数年の新しい作品が中心。今となっては、コロナ前の「マスクをしなくてもいい東京の街」の記録だ。だけど、ギラギラしているが、ドキっとしない。
・なので、逆に、コロナ感染拡大下の東京で、まさに今、どういう写真を撮っているんだろう…ということの方が気になっている。
・期待値が高かったせいか、全体的に物足りない印象だった。結局、自分は、フィルムを印画紙に焼き付けるまでの一連の作業を森山大道の作品として見ていて、頑なにそれが好きなんだろうと認識する。
【森山大道の東京 ongoing】
— 東京都写真美術館 (@topmuseum) 2020年7月13日
作家自身のポートレイトといわれることもある、代表作《三沢の犬》。本展では1メートルを超える大迫力サイズのオリジナルプリントを展示中!ゼラチン・シルバー・プリントならではの質感を間近でご覧ください。https://t.co/0OopVy8Ieu#森山大道 #東京都写真美術館 pic.twitter.com/ZV4KJITFNG
【森山大道の東京 ongoing】
— 東京都写真美術館 (@topmuseum) 2020年7月7日
壁一面を埋め尽くすのは、『Lips』より。12メートル超の壁面いっぱいに、なんと108つの唇が並んでいます!作品の前に立つと連続するイメージに取り囲まれるかのようです。圧倒的なインパクトを全身で体感してみては。https://t.co/0OopVy8Ieu#森山大道 #東京都写真美術館 pic.twitter.com/AaQihafFUG
【森山大道の東京 ongoing】
— 東京都写真美術館 (@topmuseum) 2020年7月2日
森山大道といえば、モノクロ写真を思い浮かべる方も多いかもしれません。本展は森山のカラーにも着目!森山独特の艶やかで、鮮やかな色彩のカラー写真とモノクロの対比を、ぜひ会場で体験してください。https://t.co/0OopVy8Ieu#森山大道 #東京都写真美術館 pic.twitter.com/InlU2frmf6
箇条書き美術展めぐり 真喜志勉 Turbulence 1941-2015(多摩美術大学美術館)
大きな美術館でメディアに出まくりの美術展を見に行くのもいいけれど、たまにはこうしてローカルな大学美術館で、これまで未知だった作家の画にふれるというのも、いいものである。
・真喜志勉は、沖縄出身の画家。「Turbulence」とは「乱流」という意味である。
・真喜志勉の画家人生は、本土返還や米軍基地といった沖縄が抱えつづける問題とともにあり、画風を何度も大きく転換しながらも、その画の向こうには「米軍」「基地」の姿が見えてくる。
・画業を俯瞰すれば、「乱流」のような作風の転換は、そのまま沖縄が巻き込まれている「乱流」の映し鏡であり、その時代時代で最適な描き方をチョイスをしているのだろう。