繰り返すセコイズム。

せこくつつましく、セコ充を目指してセコ活をしています。

とりとめなくアジア本を4冊

コロナ禍で旅に行けない日々が続き、台湾の夜市や東南アジアの市場で密になりたいという気持ちを抑えつつ、最近はアジア関連の本を読むことが増えている。映画も、日本の映画かアジア関係のものしか見ていない。しかし、そうしていると、いろいろなところで、あの本とこの本がつながって…とか、この映画があの時読んだ本とつながって…と、いつも広がりと再発見があって楽しい。今年刊行された本を中心に、とりとめなく4冊。

動きだした時計 ベトナム残留日本兵とその家族

ベトナムの風に吹かれて」(この本も面白い!)の著者である小松みゆき氏によるノンフィクション。太平洋戦争後、ベトナムに残留した日本兵がベトミン(ベトナム独立同盟)を軍事指導し、フランスからの独立戦争に力を貸していたことは、意外に知られていないのかもしれない。彼らは現地で家族を持ち、ベトナム名を名乗ってベトナム人として生きていたものの、ある時、日本への帰国の命が下る。日本は欧米とともに西側に属し、ベトナムは共産圏の東側の国という、国と国との思惑があったのだろう。残留日本人らは、家族を置いて日本へ帰国することとなる。

そして、著者の小松氏は、ハノイ日本語教師をしているときに、生徒から「私の父親は日本人」というひょんな告白を受けて、そこからベトナム残留日本兵家族の訪日に至るという、国を動かすまでの流れを生み出す。小松氏のフットワークのたくましさ、ネットワークを広げていく力には舌を巻くが、それを大げさなものと感じさせないような、飄々と軽やかな筆致だ。そして、離れ離れになったベトナムの家族の、日本人の夫あるいは父親への想いの強さにも驚かされ、胸を打たれた。

動きだした時計: ベトナム残留日本兵とその家族

動きだした時計: ベトナム残留日本兵とその家族

 

性転師 「性転換ビジネス」に従事する日本人たち

この本を読む前は、タイにおける性転換ビジネスの内幕を描いたもの…という先入観があったのだが、読み終わった今となっては、これを「アジア本」のくくりで紹介するべきではないのかもしれないと思い始めている。性転換手術を希望する日本人をタイ現地に送り届けるアテンド業の人たちがメインだが、日本で行われていた性転換手術の歴史、性同一性障害と医療制度の問題点、あるいは性同一性障害と戸籍上の性別といった法的な問題点…といった、日本の課題を明快に解いていく。サブタイトルばかりが目を惹いてしまうが、内容は硬派なルポルタージュなのだった。

ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く

日本の中の「アジアの異国」新大久保を描いた本。実際に新大久保に移り住んだ著者が、大久保の街を歩き、人に会い、食べ、そして生活者の目線で眺め…と、街歩きガイドとしても、人物ガイドとしても、食事ガイドとしても楽しめる1冊。もちろん、読み物としても面白かった。

新大久保というと、韓流ブーム以来の「コリアンタウン」というイメージが先行してしまうが、今やベトナムやネパールからやって来た人たちの姿を多く見かける。街を歩けば、たしかにベトナム料理やネパール料理のお店がたくさんあって、アジアな味が恋しくなると、しばしば食べに行ってしまう。今や市民権を得た韓国料理は日本人客の姿も多いけれど、ベトナム料理やネパール料理のお店は、その国の若者らが集う姿が目立ち、ローカル感にあふれていて楽しい。

ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く

ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く

 

 プラナカン 東南アジアを動かす謎の民

この本だけ、2020年刊行のものではなく、2018年刊。「プラナカン」とは、特定の民族を指すわけではなく、定義するとしたら「植民地時代のマレー半島を中心とする東南アジアに移住した中華系移民の子孫・末裔」ということになるだろうか。彼らは、現地で妻を持ち、独自の文化を繋いでいった。

とはいえ、プラナカンといっても、シンガポールのプラナカンは旧宗主国のイギリスと繋がりを持って富を築いた上流階級だし(リー・クアンユー元首相もプラナカンがルーツだった!)、マレーシアやプーケット(タイ)のプラナカンはまた別の文化や社会的地位を持っているし、ひとことで「プラナカン」といっても、住んでいる国・地域によって千差万別だ。この本を読み終えてもまだ、プラナカンとは何か?という問いに明確な答えは得られないかもしれないが、現地の習俗や文化と混ざり合いながら、しぶとく生き延び、多様さを生み出して様々な顔を持った存在が「プラナカン」なのかもしれない。 

プラナカン 東南アジアを動かす謎の民

プラナカン 東南アジアを動かす謎の民

  • 作者:太田 泰彦
  • 発売日: 2018/06/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)