繰り返すセコイズム。

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香港クライシスについて考える3冊

新型コロナの感染拡大、そして、6月の香港国家安全法の施行以降、香港の民主化デモには逆風が吹きまくっている。新型コロナの拡大防止を理由に集会は禁じられ、選挙も延期されて民意を問う機会は失われた(9月)。さらに、香港独立を支持する民主派議員4人の資格剥奪があり、それを受けて民主派議員15人が抗議辞任を表明(11月)。一方、国安法によって、8月には日刊紙アップルデイリーの創業者・黎智英(ジミー・ライ)が逮捕され、そして今月には、日本のメディアでもなじみのある、黄之鋒(ジョシュア・ウォン)や周庭(アグネス・チョウ)らの民主活動家が実刑判決で禁固刑に処せられた。香港の民主派は、今や、他国からの中国共産党への干渉に期待するしかないというくらい、打つ手がなく、追い込まれているのではなかろうか…

そういうわけで、東京ドキュメンタリー映画祭の特集上映「香港クライシス」に合わせて読み溜めていた香港関連の本から、2020年に発売された3冊。

言論の不自由: 香港、そしてグローバル民主主義にいま何が起こっているのか

つい先日、「警察本部を包囲するよう抗議者に呼びかけた」という理由で禁固刑の実刑となってしまった黄之鋒(ジョシュア・ウォン)の著作。内容は3部構成で、中学生時代に「学民思潮」を立ち上げてから当時の「国民教育」の改悪を撤回させた頃の自伝、収監体験を綴った獄中記、そして、北京政府への批判と香港の未来を憂う「世界の民主主義に対する脅威」。

黄の「だからこそ、ぼくは今、あなたがたに協力を要請しているのだ」「どうかまだ香港から手を引かないでほしい」という共闘を訴えかける言葉も、それでもまだ香港の「政治的成熟の達成」を信じる言葉も、今は悲痛な叫びに聞こえてならない。

香港はなぜ戦っているのか

24歳の黄之鋒に対して、こちらは御年84歳の文筆家・評論家の李怡による著作(年齢は2020年12月時)。主に、民主派系の日刊紙アップルデイリーに書かれたエッセイで構成されている。2012年、2013年頃から、香港がじわじわと中国大陸に侵食されはじめていることに、繰り返し警告を鳴らし続けている。粉ミルクの買い占め問題、香港へ越境入学する双非児童問題、大陸側の人間にビルを爆買いされて高騰し続ける住居問題といった問題を提起し、中国は「物質主義」や「道徳の崩壊」におぼれ、中国自身で自分たちの良いところを捨て去ってしまったと嘆く。

しかし、若き黄之鋒が『言論の不自由』でほとばしるような言葉でアジテーションをぶち上げているのに比べ、李怡の言葉からは「いつかそのうち大陸に飲み込まれるだろう」という諦観が垣間見えるのは、文筆での戦いもすでに晩年に差しかかった、年齢的なせいなのだろうか。

香港はなぜ戦っているのか

香港はなぜ戦っているのか

 

香港デモ戦記

2020年5月に発売された本なので、香港国家安全法施行や新型コロナの影響もなく、今となっては、「絶対に、沈黙しない」という帯とともに使われているアグネス・チョウの写真が、ちょっと悲しい。

とはいえ、雨傘運動からの流れから2019年の市民デモまでを振り返るには、コンパクトにまとまった1冊。それから、日本では「民主派」とひとくくりで報道されるけれど、香港の民主派といってもいろいろな派閥があるよ…ということを分かりやすく解説してくれる。

香港デモ戦記 (集英社新書)

香港デモ戦記 (集英社新書)

  • 作者:小川 善照
  • 発売日: 2020/05/15
  • メディア: 新書